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「人生を楽しく豊かに生きるために」


飯田清人


人生達人への道には二つのフェーズがあります。一つは自分の能力や人間的魅力などの個人的資質を磨いてプロの仕事ができる仕事達人を目指す道です。もう一つは、社会生活において、どのように良好な人間関係を築き、どのような考え方で健康的な人生を送るかに関する人間達人への道です。

私たちはこの二つの達成を目指して、ものごとに対する見方・考え方を確立させて、実際の生活を変革していく必要があります。人生達人への道を極め、心豊かな創造的なヘルシーライフを送るためには、何よりも毎日の心の持ち方と過ごし方が大切になります。


一日一日の積み重ねが私たちの一生を形成しています。単にビジネスなどでの一時的な成功や失敗が人生のすべてを決めるものではありません。

幸いにして社会的に名声を得て、周りの人たちから成功した人だと思われていても、それだけでは決して人生に成功したと言える訳ではありません。効なり名遂げたはずの立派な人たちが、その後に不祥事が明らかになって消えていくようなことがいくらでも起こっています。

また反対に、たとえ一時的に失敗したとしても、それは決して人生のすべてに失敗した訳でもありません。それは自分の人生の中での単なる一つの出来事に過ぎず、いくらでもやり直しができ、またいくらでも新しい道に進むことができるのです。

大事なことは自分自身の心の持ち方であり、一時の成功や失敗ではなく、最後まで充実した人生を生き抜いたかどうかにあります。


磨くことと伝えること


筆者は自己を磨くことと得たものを人に伝え、社会のために役立てることが人生で最も大切なことであると思っています。人と共に歩む人生であるからこそ、自分の持てるものを常に磨き向上させ、さらにそれらを少しでも人に伝えて、社会に貢献していくことが望まれるわけです。


お金であれ、能力であれ、自分の得たものは決して自分ひとりだけの力で得たものではありません。もちろんそのための努力と苦労は大いに評価されるべきものではありますが、それらは多くの人たちからの援助によって得られたものであり、人から与えられたものであると考える必要があると思います。人からの支援があったからこそ、恵まれた現在の自分があると考えるべきでしょう。

人や書物から学んで得た多くの知識をベースにして、さらに自分自身の経験と新しい知恵をそれに加えて、社会に何かを為していくこと、これが私たちの目指す道です。そういった大きな人生目標に向かって、常に自分自身を磨いていくことが大切であると思います。


磨きのスパイラルで実践する16のテーマ


筆者は自分の夢を実現させるために、自らが設定した個々のテーマについて積極的に学んでいます。そしてそれらを様々な機会をとらえて、人に話したり文章にしたりして、「磨きのスパイラル」のサイクルを繰り返し実行することに努めています。

それらの活動を通して、大勢の人たちからさらに多くのことを教えていただき、自らも学んで人生目標のテーマを深く掘り下げ、常に前向きに肯定的なプラス思考でものごとを考えることにしております。


このような考え方で毎日を過ごしていると、たとえ少しずつではあっても、自分の成長が見えてくるような気がして楽しくなってきます。学べば学ぶほど自分のいたらなさとその深さを知り、また新たなやる気が湧いてくるというサイクルを繰り返しています。


ここでは筆者が実際に実行している人生達人を目指す行動計画の一端を示しておきます。

自分の夢を実現させるための4つの活動サイクルと、それらの活動サイクルについて、各々の項目をさらに細かい4つのテーマに分け、「磨きのスパイラルで実践する16のテーマ」として、そのキーワードと狙いおよび奥義名を示します。


「人生達人を目指す行動計画」 (飯田)


新しい時代を勝ち抜き、人生を豊かに過ごすために


1.自己を磨き、専門を極める    ・・・プロフェッショナル・サイクルを回す

2.経営管理能力のレベルアップ   ・・・マネージメント・サイクルを回す

3.人と良い人間関係を築く     ・・・人間関係サイクルを回す

4.豊かな心の持ち方、健康的な生き方・・・心構えサイクルを回す


「磨きのスパイラル」で実践する16のテーマ


キーワード         狙 い               奥義名


1、プロフェッショナル・サイクルを回す

(1) 時間有効活用    自分の時間を創出し活用する      時間創出の術

(2) 不屈の精神     疲労の第一層を乗り越える       やる気継続の術

(3) 達成イメージ    設定した目標を確実に達成していく   願望達成の術

(4) プロ意識      仕事を楽しむレベルに達する      仕事三昧の術


2、 マネージメント・サイクルを回す

(1) 温故知新      人の知恵を活用する          知恵借用の術

(2) 多面的見方     広い視野で新しい展開を予測する    先見洞察の術

(3) 率先行動      決めたことは必ず実行する       戦略行動の術

(4) 人材育成      人育ての名人を目指す         人育ての術


3、 人間関係サイクルを回す

(1) 戦わずして勝つ   人と決して争わない         負けるが勝ちの術

(2) チームワーク    人の長所を認め調和する        友好調和の術

(3) 人間心理探究    人間の心理と行動を探究する      人心掌握の術

(4) 感動人生      人に感動と喜びを与える        人尽くしの術


4、心構えサイクルを回す

(1) 向上の意欲     肯定的に前向きに生きる        成長思考の術

(2) モア・フレキシブル 否定的観念を捨てる          自己変革の術

(3) 少欲知足      ストレスを減らし心身を健康に     心身健康の術

(4) 明るく、楽しく   人間的魅力を向上させ、生きがいを持つ 自己実現の術




異を味方にすれば道は開ける


飯田清人


今のキーワードは「異」


私たちは、普段の習慣とは違った異なることに出会うと、それに対して違和感を感ずるものです。そして、「嫌だな」と思い、それを避けようとするのが普通です。しかし何かに違和感を感ずること、異なったものに出会うことこそが、新しい創造や発展のきっかけとなります。

異分野、異色、異分子、異端児、異国、異形、異方性などなど、「異」がつく言葉は多くありますが、一般にはあまり好まれないものを指すのが一般でしょう。しかし激動する現代社会において、最も重要なキーワードは、実は「異」なのです。


あなたは自分とは違った異なるものを避けていないでしょうか。また部下などの提案や意見などを、自分とは異なったもの、組織の風土に合わないものなどとして潰してはいないでしょうか。

異こそが、新しい創造の源です。特に自分とは異なった考え方を持つ人の意見を求める事によって、自分ではとても発想のできないような新しい視点で、ものごとに対応することができます。そこにこそ、新しい創造が生まれてくる可能性があるのです。


現在直面している困難な状況を打ち破る方法の一つは、自分とは異なった考え方を持つ人の意見を求める事にあります。今、我々に求められるものは、異を受け入れる大きな心なのです。異なるものを味方にするためには、自分自身が変わらなければなりません。


異なるものが活躍している


皆さんは、魚を生きたままで長距離輸送するための良い方法をご存じでしょうか。もちろん魚が生存できる水質や温度を確保したり、酸素を供給したり、揺れを少なくするなどが第一に必要でしょう。ところが面白い方法として、水槽の中にナマズのような別の魚を一緒に入れて輸送するというユニークな方法があります。

同じ魚だけだと輸送中の体力の消耗によって途中で死んでしまうことが多いのですが、水槽内に怖そうな別の魚を一緒に入れておくと、魚は緊張して長距離輸送にも耐えるというわけです。異なるものの活用が魚を生き長らえさせているわけです。


宝石などの鉱物は、その希少価値と共に、微妙な色や輝きなどに値打ちがあります。その色の輝きは着色中心となるものがあって、結晶構造や成分、組成などによって変わってきます。ほんの僅かな不純物原子が入ることによって色が変わることが知られています。

例えば、おなじみのエメラルドとルビーは、もとの主成分は同じアルミナ(Al)です。その基本となるコランダムは無色ですが、その中に不純物としてほんの僅かなクロム原子が入ることによって、ルビーは赤色に、またエメラルドは緑色に輝き、宝石としての価値を生み出します。その結晶構造の違いよって、違う色に発色しているのです。


コカコーラが日本に入ってきたとき、その薬のような味に、誰しもが違和感を持ったものでした。しかし今では、それがポピュラーな清涼飲料水になっています。また料理の味付けに使う調味料や隠し味なども、ちょっと何かを付け加えるだけでみごとな旨い味になるのです。

ファッションやデザイン、芸術などの世界では、従来の感覚を打ち破る斬新さが新しい価値を生み出します。ピカソの絵が世に出たとき、人々はわけがわからない絵だと思いました。しかしそこに何か新しい時代を感じさせるものがあったのです。


このようにあらゆる分野で異なるものが活躍し、新しい価値を生み出しています。異なるものを上手に活用することによって、様々な分野で新しい創造や発展が生まれているのです。


人のやらない異なったテーマへ挑戦せよ


ノーベル賞を受賞した利根川 進博士が、受賞後に日本の高校生の前で講演したとき、「先生のようなすばらしい研究をするには何が大切ですか」という質問がでました。博士はしばらく考えてから、「それは常識を疑ってみることと、人と異なったことをするのに違和感を持たないことです。」と話しました。

常識とは、その時代の知識や文化によって形成されるものです。新しいことが発見され、従来とは異なった知見が得られれば、それまでの知識はもう常識ではなくなります。地域によっても常識は変わりますし、社会制度が変われば常識も変わるのです。常識というものに、絶対ということはありません。


新技術開発や新商品開発のためには、従来とは異なったテーマを取上げ、深く研究することが求められます。すべての新しい技術の発展は、まさに、「異から始まる」と言っても過言ではないでしょう。

他の人がやるのと同じことをしていたら、いつまでたっても新しい独創的なものを打ち出すことはできません。人が見向きもしないような、異なるものを大切にして、勇気を出してそれに取り組んでいくことが必要なのです。


異を味方にして組織を活性化する


異なるものを避けることは、様々な問題を引き起こします。会社などの組織において、権力者や上司などが、気に入った取り巻き連中の意見だけを尊重して、少数意見や自分とは反対意見を持つ者を排除したり、抹殺してしまうことがあります。

このようなことが長期にわたって行われると、その組織は必ずおかしくなり、崩壊の憂き目を見ることになります。上位に位置する者こそ、異なる意見を積極的に聴き、少数意見や異なった考え方を受け入れる大きな心が必要です。そういった異なる意見にこそ、新しい発展の種や問題解決の道が隠されているからです。


これまでは新卒者だけを定期的に採用して、自社において教育し、画一的な人材を求めていた企業も、最近は能力のあるユニークな人を積極的に中途採用することが行われるようになりました。組織の中に外部から異なった人が加わることによって、組織のマンネリ化を防ぐことができ、異なった考え方が、組織を活性化するのです。


異分野の人たちとの交流が視野を広くする


最近は、企業の競争力強化や様々な目的達成のために、異分野の企業がお互いのメリットを出し合って協力しあう企業間協力やアライアンスなどによる新しい事業展開が盛んです。これを異分野コラボレーションと言いますが、これなども異を味方にして新しい事業展開を進めていくことが目的です。


国家的に重要分野の科学技術開発などでは、政府や大学、産業界の専門家が一緒にプロジェクトを組み、産学協同で行っています。例えば文化に関する研究は、一般には文系の仕事であるように思われがちですが、その解明のためには、地質学、放射性化学、生物遺伝学、人類学、食物学といった理系の技術者や研究者との結合が不可欠です。


現在の高等教育が明確に文系と理系に分かれていることなどから、私たちは一般に、自分の専門によって、文系だ、理系だというこだわりを持つことが多くあります。しかし現代の複雑な諸問題は学際にあります。つまり双方が総合的に関与することによってのみ、問題解決が得られることが多くなっています。

私たちはもう、文系だ、理系だといったこだわり超えて、ものごとを、より広く、大きく考える必要があります。

新しい創造は、従来と同じ様な発想からは決して生まれません。考える視点が変わらなければ、現在の変化の厳しいビジネス状況を打ち破るための何の施策もアイデアも生まれてこないでしょう。



時が極まれば反転する ~すべての問題は必ず解決する~


飯田清人


散逸構造理論

イリア・プリゴジン(1917年ロシア生まれ、1977年ノーベル化学賞)


絶えず外界からエネルギー(非エントロピー:秩序)を取り入れ、このエネルギーを使用する事によって、「系」の秩序を保ち、その結果生じたエントロピー(無秩序)を「系」の外に放出(散逸)する構造(組織)のこと。この理論はもともと化学分野の現象を説明するための理論でしたが、生物科学や社会科学の分野にも応用可能です。


例えば、我々の身体は外界からエネルギーとしての食物と酸素を取り入れ、エネルギー代謝によって秩序(非エントロピー)を形成しています。その結果として不要となった物質を排泄物や体温などを通じて、いわゆる無秩序(エントロピー)を放出して、安定した身体の状態を維持します。

また事業などで危機に直面したとき、そのショックのため一時的に大きな動揺(無秩序の増大)が起こります。しかしその危機を突破するための対策と努力(秩序の為の外界からのエネルギーの取り込み)がなされ、それがある一定の極限を越えると、過去に構築された古いシステムが崩壊(散逸)していきます。これによって新しい事業環境にふさわしい組織やシステムが構築され、事業の安定が取り戻されるのです(新しい秩序の形成)。


病気の回復も同じように、心身に異常状態が現れると、一時的には苦悩が増大しますが、我々の体内ではその異常を回復すべく生理的なあらゆる努力がなされます。その努力が一定の極限を越えると、その原因となっていた要因が自然に取り除かれ、再び心身のバランスを回復して安定した状態が取り戻されるのです。これがホメオスタシスでありセルフヒーリング(自己治癒力)です。


自己に内在する無限能力(智慧の宝庫)の存在を信じよ


すべての成功物語や病気克服などの事例には、どんな困難にもまた失敗の連続にも、夢を持ち続けて諦めずに頑張り抜いた感動の不屈の精神と努力が見られます。目的を達成するまでは決して諦めず、常に自分の可能性を信じて突き進む情熱がそこにあります。


私たちの潜在意識の中には、「無限能力(智慧の宝庫)」が眠っています。それはすべての人々と共通して繋がっている智慧の宝庫であり、それはまた万物を支配している偉大な力とも繋がっていると考えてよいのです。私たちには生まれながらにして、すべての問題を解決し、夢を実現させるための天才や成功者としての素養が備わっているのです。


大切なことは、問題を解決しようという強い意志と信念です。この情熱が自己に内在する智慧の宝庫を刺激し、働かせ、そして解決への道を開くのです。新しいアイデアの発現や心身のバランスの回復、支援の手を差し伸べてくれる人の出現や取り巻く環境の変化など、これらは決して偶然にやって来るのではありません。問題解決に向かうその情熱と努力に対して、内在する無限の智慧の宝庫から湧き出てくる必然的な答えなのです。


時が極まれば反転する、それまで待つは「忍」の一字


散逸構造理論にあるように、危機突破のあらゆる努力が継続的になされ、それが極限に達した時にすべての問題は解決に向かって行きます。経営危機であれ、願望の実現であれ、病気の克服であれ、あらゆる問題は必ずいつか転機を迎えます。

そのときまでの労苦や悩みは必ず癒される時がくるのです。心から「転機は必ず訪れる」と信ずることが大切です。


夜明け前が一番暗いと言います。この反転する転機のときには、古い無秩序が一度に放出され始めるために、一時的に状況が悪化するように見えることがあります。

このような時には誰しも絶望的になり、また諦めてしまいたくなるものですが、「今、状況は反転したのだ。」というプラス思考を持って、自己に内在する無限の能力と状況の好転を確信して、頑張り抜く強い精神力が求められるのです。


「憂きことのなおこの上に積もれかし限りある身の力試さん」(熊沢蕃山 儒学者)

「冬枯れの木々の梢に積もる雪の重きさだめを振り払いつつ」(飯田清人)


逆境の時こそ自分を磨く、文豪森鴎外の左遷に学ぶ


明治の文豪、森鴎外。彼は軍医であり、つまり今で言うサラリーマンの一人でした。ある時の人事異動で、同僚たちが栄転する中で、彼だけが九州の小倉に左遷されたのです。鴎外は落胆し、悩み苦しんで、辞表までしたためましたが、最後は思い直して、気持ちを切りかえて勇躍小倉へ赴きました。

小倉に赴任した鴎外は、心を新たにして、それまで以上に軍医としての仕事に励むとともに、この逆境の中で、時間を見つけてドイツ語を学び、翻訳などに精を出して、自分を磨くことを忘れませんでした。


後にその時の自己研鑽が活きて、仕事では陸軍軍医総監というトップにまで昇り、さらに文壇で認められ大文豪とまで呼ばれるようになるのです。鴎外はこの逆境の時に、心を新たにして不満や悩みを振り払い、将来の希望に向かって、ひたすら自分を磨いたことが、後の栄光をもたらしたといえるのです。


「一苦一楽、相磨錬し、練極まりて福を成すものは、その福始めて久し。一疑一信、相参勘し、勘極まりて知を成すものは、その知始めて真なり。」(菜根譚後集74条)

苦しんだり楽しんだりして修業を続けて、一生懸命練磨を重ねてつかんだ成功や幸福であってこそ、その幸福は長続きする。また疑ったり信じたりして、苦心を重ねて考え抜いた知識や知恵であってこそ、それが本物になる。


何時でも、何処でも、どんな境遇にあっても、自分自身を信じ、主体的に自分を活かし切れば、そこに自分の本当の人生があります。逆境に負けることなく、今のこのときを精一杯生きぬく強さが、苦しみを喜びに変え、その後の豊かな新しい人生を約束するのです。


常に夢を持って、前向きに、プラス思考で明るく笑って生きよう


「泣いた分だけやさしくなれます。つらい思いをした分だけ強くなれます。笑った分だけ幸せになります。」

これは栃木県のある病院で見ました。いい言葉ですね。



気功太極拳のすすめ ~心平気静で生きる~


飯田清人


健康とは生き方そのものである


健康とは単に自分の身体に病気がないということではなく、自分の生き方そのものです。身体と心とは一体であり、自分の心の状態や生きていく人生哲学が健康と切っても切れない関係にあります。

孟子は「意思の行くところに気が従う」と言っていますが、これは東洋医学から言えば、意念を身体の部分に向けると気がそこに巡って行くという意味です。しかし筆者は同時に、自分が目標を持ってやろうとする心の持ち方や正しい生き方が、身体の各器官の正常化をうながし、自分を心身共に健康にしていくという意味でもあると解釈しています。


東洋医学では健康は生き方の中にあり、たとえ病気の兆候がなくても、どうすればより健康で長生きできるかを考えています。普段から禅や瞑想をしたり、気功や太極拳をやったりするのは心の鍛錬と身体の鍛錬とを一体化して実践している好例です。これは医学と精神的な思想とが一体化されたものとして健康をとらえています。


私たちの人生の究極の目的は、どのように健康を維持し、どのように人生を充実して楽しく豊かに生きていくかということにあります。そのためには、自分自身の健康法と生き方、つまり心の持ち方を確立することが求められるのです。


ゆったり呼吸が心身を健康に導く


人間は自然の一部であり、私たちが健康に生きていくためには、大自然と交流し、自然と人間との調和が一番大切であると考えています。気功太極拳は中国4000年の健康の秘術であり、身体を整え、呼吸を整え、そして心を整えることが健康の基本であるとしています。つまり、「調身」、「調息」、「調心」です。意識と深い呼吸と身体の動きを一つに合わせることにより、身体を鍛え、内蔵を強くし、同時に心を落ち着かせて心身両面の健康を得ることができるわけです。


気功とは気を鍛錬することです。太極拳は気功の一種であり、外から新しい気を取り込み、身体を気で満たします。気とは宇宙のエネルギーのことであり、外から気を取り込んだ身体には、無限の生きる力がみなぎってきます。気は意志と連動しており、意志を持って気を導くことができます。そして意志によって気が動けば、それにつれて血が動き、身体中のすべての細胞が活性化されるのです。

鍛錬とは言い換えれば継続することです。自分の好きな気軽な運動を、無理なく続けることによって、身体の各機能が正常に維持され活性化されてきます。毎日の継続は、肉体的な強さだけではなく、同時に精神的な心の強さや忍耐力も養うこともできるわけです。


また調心とは、自然(大宇宙)と自分(小宇宙)とが一体となった万物と調和する心の持ち方です。それは落ち着いた静かで平らかな心であり、すべてを飲み込んだ大きな心です。江戸時代の儒学者、貝原益軒は「養生訓」の中で、「養生とは心の静と平を保つことである」と言っています。心の平静さこそが健康の第一条件だというわけです。


心を整えるとは、常に平常心を持ち、ストレスを減らして心静かに過ごすことです。ものごとや他人に対する見方や自分の心の持ち方が重要なポイントになります。時には瞑想や禅などで時を過ごし、忙しい生活から一歩離れた時間を持つことも必要でしょう。怒りやイライラは健康に最も悪いのです。ストレスをなくし、いつも心を平らかに持って人と和し、楽しく健康に生きたいものです。


呼吸を整える


呼吸の第一の目的は、大気から酸素を取り込むことです。しかしこの呼吸が私たちの健康のために非常に重要な役目をしています。それは、呼吸は自分の意志の力でコントロールできる唯一の自律神経であるということです。

外部から身体の各器官を自分の意志によって活性化できる唯一の窓なのです。このことは呼吸の仕方によって、私たちは自分の身体の状態を変えることができ、コントロールすることができることを意味しています。


実はこの認識があるか否かが、あなたの心身の健康に大きな影響を与えています。私たちが無意識におこなっている自然呼吸と、いわゆる健康呼吸法との大きな違いは、その“意念”にあります。つまり意志を持って呼吸を行うか否かの違いです。


いらいらしている状態や心が緊張しているような時には、私たちは一般に頻繁に短く浅い呼吸をしています。それは緊張したりした時には交感神経を働かせる必要があり、そのために酸素がより必要になり、呼吸の頻度を上げて酸素をより多く取り入れているのです。

そういった時に大きく深呼吸をすれば、心が落ち着いてくることを誰でもが知っています。つまり身体を整え、心を整えるために、その仲立ちとして呼吸が関与しているということです。逆に言えば呼吸を整えることによって身体と心を整えることができるわけです。


呼吸が身体と心をつなぐ大切な役目をしていますから、心と身体のリズムの不調は、呼吸によってそれをコントロールして正常に戻すことが可能となります。正しい健康呼吸法を修得すれば、健康を維持しさらに増進させることができるわけです。


腹式呼吸を実践する


呼吸はその言葉の通り、吐く息(呼気)の方が、吸う息(吸気)よりも先にあります。赤ちゃんは生まれ落ちるとすぐに元気に泣き出しますが、これは吸うことより先に、吐いています。つまり呼吸は吐くことから始まっていることがおわかりでしょう。

呼吸には交感神経と副交感神経が別々に関与しています。吸う時には交感神経が優勢であり、私たちの筋肉は緊張状態にあります。反対に、吐く時には副交感神経が関与し、身体の状態は弛緩状態となります。


すべての呼吸法は吐くことに注意が払われます。気功にしても丹田呼吸法にしても、深く、長く、ゆっくりと吐くことに重点が置かれているのです。ですから、深く、長く、ゆっくりと吐くということは、身体も心もゆったりとした弛緩状態を長く保つことを意味しています。それだけ心が落ち着いてくるわけです。


お臍のすぐ下に丹田とよばれるツボがあります。ここは西洋医学では太陽神経叢と呼ばれており、内蔵器官に関係している多くの自律神経が集まっています。医学的にも非常に重要な部所となっています。

ここを刺激すると内蔵の働きが活発化し、血行が良くなって身体的な健康を促進することができます。また同時に副交感神経の働きも活発となるため、精神的にも心が落ち着き、ゆったりとした気分になってくるのです。


胸腔と腹腔の間にある横隔膜を動かして腹式呼吸をすると、一回ごとの呼吸のたびにこの丹田部分が刺激され、自律神経を刺激することになるわけです。腹式呼吸によって内蔵の体腔を広げ、内臓の各器官を活性化すると同時に、心のもやもやした気持ちを解消し、精神的な安定を得ることができるわけです。


気功太極拳のすすめ


気功太極拳は、意念を伴ったゆっくりした深い呼吸と身体の動きを一つに合わせます。それによって身体を鍛え内蔵を強くし、そして心を落ち着かせて心身両面の健康を得ることができます。

「長息きは長生きに通ずる」と言われます。筆者はほぼ20年に渡って、中国の24式簡化太極拳をアレンジした楊名時太極拳(健康太極拳)と、気功法としての八段錦を一緒に実践しています。これを始めてから確かに身体の調子がよいと実感しています。

普段の日常生活でも、なるべくゆっくりした深い呼吸を心がけており、なるべく長い呼吸をするように努めています。また、就寝前には必ず下腹部に力を込めた丹田呼吸を数分間おこなっています。それはこれをするとすぐにぐっすりよく眠れるからです。少しくらいの悩みごとや心配事があっても、まず確実にぐっすり眠れるのです。


気功太極拳は優れた健康法です。何時でも、何処でも簡単に、一人でできます。何も道具はいりませんし、お金もかかりません。他のスポーツのように、無理をして身体を壊すなどということは、まずないと言ってよいでしょう。

気功太極拳では、前述の腹式呼吸を逆にした逆腹式呼吸が主体です。これは息を吸うときにお腹をへこませ、吐くときにお腹を膨らませる呼吸法です。気功太極拳はこれを、通常の自然呼吸と共に自然に行うことができるようになっています。


心平気静は太極の道


師家楊名時は、「心平気静」が太極の道であると言っています。気功太極拳は静かで平らかな心(調心)で、ゆったりとした深い呼吸(調息)による、とどこうりのない緩やかな動き(調身)にその基本があります。

形は心の現れであり、無心で舞う美しい心から生まれた美しい形こそが究極の健康美であるとしています。洗練されたその舞いはまさに芸術であり、「健康は愛の心から生まれる。そして健康とは自分が創り出す芸術である。」としています。


また、「太極拳は身体と心で舞う論語である」と言っています。太極拳を舞うことにより仁徳、忠恕の人間の道を極めようというわけです。「子曰く、仁遠からんや、我れ仁を欲すれば、ここに仁いたる」(論語)。筆者もまた、太極の道こそ「人生達人への道」であると考えています。