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気功太極拳のすすめ ~心平気静で生きる~


飯田清人


健康とは生き方そのものである


健康とは単に自分の身体に病気がないということではなく、自分の生き方そのものです。身体と心とは一体であり、自分の心の状態や生きていく人生哲学が健康と切っても切れない関係にあります。

孟子は「意思の行くところに気が従う」と言っていますが、これは東洋医学から言えば、意念を身体の部分に向けると気がそこに巡って行くという意味です。しかし筆者は同時に、自分が目標を持ってやろうとする心の持ち方や正しい生き方が、身体の各器官の正常化をうながし、自分を心身共に健康にしていくという意味でもあると解釈しています。


東洋医学では健康は生き方の中にあり、たとえ病気の兆候がなくても、どうすればより健康で長生きできるかを考えています。普段から禅や瞑想をしたり、気功や太極拳をやったりするのは心の鍛錬と身体の鍛錬とを一体化して実践している好例です。これは医学と精神的な思想とが一体化されたものとして健康をとらえています。


私たちの人生の究極の目的は、どのように健康を維持し、どのように人生を充実して楽しく豊かに生きていくかということにあります。そのためには、自分自身の健康法と生き方、つまり心の持ち方を確立することが求められるのです。


ゆったり呼吸が心身を健康に導く


人間は自然の一部であり、私たちが健康に生きていくためには、大自然と交流し、自然と人間との調和が一番大切であると考えています。気功太極拳は中国4000年の健康の秘術であり、身体を整え、呼吸を整え、そして心を整えることが健康の基本であるとしています。つまり、「調身」、「調息」、「調心」です。意識と深い呼吸と身体の動きを一つに合わせることにより、身体を鍛え、内蔵を強くし、同時に心を落ち着かせて心身両面の健康を得ることができるわけです。


気功とは気を鍛錬することです。太極拳は気功の一種であり、外から新しい気を取り込み、身体を気で満たします。気とは宇宙のエネルギーのことであり、外から気を取り込んだ身体には、無限の生きる力がみなぎってきます。気は意志と連動しており、意志を持って気を導くことができます。そして意志によって気が動けば、それにつれて血が動き、身体中のすべての細胞が活性化されるのです。

鍛錬とは言い換えれば継続することです。自分の好きな気軽な運動を、無理なく続けることによって、身体の各機能が正常に維持され活性化されてきます。毎日の継続は、肉体的な強さだけではなく、同時に精神的な心の強さや忍耐力も養うこともできるわけです。


また調心とは、自然(大宇宙)と自分(小宇宙)とが一体となった万物と調和する心の持ち方です。それは落ち着いた静かで平らかな心であり、すべてを飲み込んだ大きな心です。江戸時代の儒学者、貝原益軒は「養生訓」の中で、「養生とは心の静と平を保つことである」と言っています。心の平静さこそが健康の第一条件だというわけです。


心を整えるとは、常に平常心を持ち、ストレスを減らして心静かに過ごすことです。ものごとや他人に対する見方や自分の心の持ち方が重要なポイントになります。時には瞑想や禅などで時を過ごし、忙しい生活から一歩離れた時間を持つことも必要でしょう。怒りやイライラは健康に最も悪いのです。ストレスをなくし、いつも心を平らかに持って人と和し、楽しく健康に生きたいものです。


呼吸を整える


呼吸の第一の目的は、大気から酸素を取り込むことです。しかしこの呼吸が私たちの健康のために非常に重要な役目をしています。それは、呼吸は自分の意志の力でコントロールできる唯一の自律神経であるということです。

外部から身体の各器官を自分の意志によって活性化できる唯一の窓なのです。このことは呼吸の仕方によって、私たちは自分の身体の状態を変えることができ、コントロールすることができることを意味しています。


実はこの認識があるか否かが、あなたの心身の健康に大きな影響を与えています。私たちが無意識におこなっている自然呼吸と、いわゆる健康呼吸法との大きな違いは、その“意念”にあります。つまり意志を持って呼吸を行うか否かの違いです。


いらいらしている状態や心が緊張しているような時には、私たちは一般に頻繁に短く浅い呼吸をしています。それは緊張したりした時には交感神経を働かせる必要があり、そのために酸素がより必要になり、呼吸の頻度を上げて酸素をより多く取り入れているのです。

そういった時に大きく深呼吸をすれば、心が落ち着いてくることを誰でもが知っています。つまり身体を整え、心を整えるために、その仲立ちとして呼吸が関与しているということです。逆に言えば呼吸を整えることによって身体と心を整えることができるわけです。


呼吸が身体と心をつなぐ大切な役目をしていますから、心と身体のリズムの不調は、呼吸によってそれをコントロールして正常に戻すことが可能となります。正しい健康呼吸法を修得すれば、健康を維持しさらに増進させることができるわけです。


腹式呼吸を実践する


呼吸はその言葉の通り、吐く息(呼気)の方が、吸う息(吸気)よりも先にあります。赤ちゃんは生まれ落ちるとすぐに元気に泣き出しますが、これは吸うことより先に、吐いています。つまり呼吸は吐くことから始まっていることがおわかりでしょう。

呼吸には交感神経と副交感神経が別々に関与しています。吸う時には交感神経が優勢であり、私たちの筋肉は緊張状態にあります。反対に、吐く時には副交感神経が関与し、身体の状態は弛緩状態となります。


すべての呼吸法は吐くことに注意が払われます。気功にしても丹田呼吸法にしても、深く、長く、ゆっくりと吐くことに重点が置かれているのです。ですから、深く、長く、ゆっくりと吐くということは、身体も心もゆったりとした弛緩状態を長く保つことを意味しています。それだけ心が落ち着いてくるわけです。


お臍のすぐ下に丹田とよばれるツボがあります。ここは西洋医学では太陽神経叢と呼ばれており、内蔵器官に関係している多くの自律神経が集まっています。医学的にも非常に重要な部所となっています。

ここを刺激すると内蔵の働きが活発化し、血行が良くなって身体的な健康を促進することができます。また同時に副交感神経の働きも活発となるため、精神的にも心が落ち着き、ゆったりとした気分になってくるのです。


胸腔と腹腔の間にある横隔膜を動かして腹式呼吸をすると、一回ごとの呼吸のたびにこの丹田部分が刺激され、自律神経を刺激することになるわけです。腹式呼吸によって内蔵の体腔を広げ、内臓の各器官を活性化すると同時に、心のもやもやした気持ちを解消し、精神的な安定を得ることができるわけです。


気功太極拳のすすめ


気功太極拳は、意念を伴ったゆっくりした深い呼吸と身体の動きを一つに合わせます。それによって身体を鍛え内蔵を強くし、そして心を落ち着かせて心身両面の健康を得ることができます。

「長息きは長生きに通ずる」と言われます。筆者はほぼ20年に渡って、中国の24式簡化太極拳をアレンジした楊名時太極拳(健康太極拳)と、気功法としての八段錦を一緒に実践しています。これを始めてから確かに身体の調子がよいと実感しています。

普段の日常生活でも、なるべくゆっくりした深い呼吸を心がけており、なるべく長い呼吸をするように努めています。また、就寝前には必ず下腹部に力を込めた丹田呼吸を数分間おこなっています。それはこれをするとすぐにぐっすりよく眠れるからです。少しくらいの悩みごとや心配事があっても、まず確実にぐっすり眠れるのです。


気功太極拳は優れた健康法です。何時でも、何処でも簡単に、一人でできます。何も道具はいりませんし、お金もかかりません。他のスポーツのように、無理をして身体を壊すなどということは、まずないと言ってよいでしょう。

気功太極拳では、前述の腹式呼吸を逆にした逆腹式呼吸が主体です。これは息を吸うときにお腹をへこませ、吐くときにお腹を膨らませる呼吸法です。気功太極拳はこれを、通常の自然呼吸と共に自然に行うことができるようになっています。


心平気静は太極の道


師家楊名時は、「心平気静」が太極の道であると言っています。気功太極拳は静かで平らかな心(調心)で、ゆったりとした深い呼吸(調息)による、とどこうりのない緩やかな動き(調身)にその基本があります。

形は心の現れであり、無心で舞う美しい心から生まれた美しい形こそが究極の健康美であるとしています。洗練されたその舞いはまさに芸術であり、「健康は愛の心から生まれる。そして健康とは自分が創り出す芸術である。」としています。


また、「太極拳は身体と心で舞う論語である」と言っています。太極拳を舞うことにより仁徳、忠恕の人間の道を極めようというわけです。「子曰く、仁遠からんや、我れ仁を欲すれば、ここに仁いたる」(論語)。筆者もまた、太極の道こそ「人生達人への道」であると考えています。