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異を味方にすれば道は開ける


飯田清人


今のキーワードは「異」


私たちは、普段の習慣とは違った異なることに出会うと、それに対して違和感を感ずるものです。そして、「嫌だな」と思い、それを避けようとするのが普通です。しかし何かに違和感を感ずること、異なったものに出会うことこそが、新しい創造や発展のきっかけとなります。

異分野、異色、異分子、異端児、異国、異形、異方性などなど、「異」がつく言葉は多くありますが、一般にはあまり好まれないものを指すのが一般でしょう。しかし激動する現代社会において、最も重要なキーワードは、実は「異」なのです。


あなたは自分とは違った異なるものを避けていないでしょうか。また部下などの提案や意見などを、自分とは異なったもの、組織の風土に合わないものなどとして潰してはいないでしょうか。

異こそが、新しい創造の源です。特に自分とは異なった考え方を持つ人の意見を求める事によって、自分ではとても発想のできないような新しい視点で、ものごとに対応することができます。そこにこそ、新しい創造が生まれてくる可能性があるのです。


現在直面している困難な状況を打ち破る方法の一つは、自分とは異なった考え方を持つ人の意見を求める事にあります。今、我々に求められるものは、異を受け入れる大きな心なのです。異なるものを味方にするためには、自分自身が変わらなければなりません。


異なるものが活躍している


皆さんは、魚を生きたままで長距離輸送するための良い方法をご存じでしょうか。もちろん魚が生存できる水質や温度を確保したり、酸素を供給したり、揺れを少なくするなどが第一に必要でしょう。ところが面白い方法として、水槽の中にナマズのような別の魚を一緒に入れて輸送するというユニークな方法があります。

同じ魚だけだと輸送中の体力の消耗によって途中で死んでしまうことが多いのですが、水槽内に怖そうな別の魚を一緒に入れておくと、魚は緊張して長距離輸送にも耐えるというわけです。異なるものの活用が魚を生き長らえさせているわけです。


宝石などの鉱物は、その希少価値と共に、微妙な色や輝きなどに値打ちがあります。その色の輝きは着色中心となるものがあって、結晶構造や成分、組成などによって変わってきます。ほんの僅かな不純物原子が入ることによって色が変わることが知られています。

例えば、おなじみのエメラルドとルビーは、もとの主成分は同じアルミナ(Al)です。その基本となるコランダムは無色ですが、その中に不純物としてほんの僅かなクロム原子が入ることによって、ルビーは赤色に、またエメラルドは緑色に輝き、宝石としての価値を生み出します。その結晶構造の違いよって、違う色に発色しているのです。


コカコーラが日本に入ってきたとき、その薬のような味に、誰しもが違和感を持ったものでした。しかし今では、それがポピュラーな清涼飲料水になっています。また料理の味付けに使う調味料や隠し味なども、ちょっと何かを付け加えるだけでみごとな旨い味になるのです。

ファッションやデザイン、芸術などの世界では、従来の感覚を打ち破る斬新さが新しい価値を生み出します。ピカソの絵が世に出たとき、人々はわけがわからない絵だと思いました。しかしそこに何か新しい時代を感じさせるものがあったのです。


このようにあらゆる分野で異なるものが活躍し、新しい価値を生み出しています。異なるものを上手に活用することによって、様々な分野で新しい創造や発展が生まれているのです。


人のやらない異なったテーマへ挑戦せよ


ノーベル賞を受賞した利根川 進博士が、受賞後に日本の高校生の前で講演したとき、「先生のようなすばらしい研究をするには何が大切ですか」という質問がでました。博士はしばらく考えてから、「それは常識を疑ってみることと、人と異なったことをするのに違和感を持たないことです。」と話しました。

常識とは、その時代の知識や文化によって形成されるものです。新しいことが発見され、従来とは異なった知見が得られれば、それまでの知識はもう常識ではなくなります。地域によっても常識は変わりますし、社会制度が変われば常識も変わるのです。常識というものに、絶対ということはありません。


新技術開発や新商品開発のためには、従来とは異なったテーマを取上げ、深く研究することが求められます。すべての新しい技術の発展は、まさに、「異から始まる」と言っても過言ではないでしょう。

他の人がやるのと同じことをしていたら、いつまでたっても新しい独創的なものを打ち出すことはできません。人が見向きもしないような、異なるものを大切にして、勇気を出してそれに取り組んでいくことが必要なのです。


異を味方にして組織を活性化する


異なるものを避けることは、様々な問題を引き起こします。会社などの組織において、権力者や上司などが、気に入った取り巻き連中の意見だけを尊重して、少数意見や自分とは反対意見を持つ者を排除したり、抹殺してしまうことがあります。

このようなことが長期にわたって行われると、その組織は必ずおかしくなり、崩壊の憂き目を見ることになります。上位に位置する者こそ、異なる意見を積極的に聴き、少数意見や異なった考え方を受け入れる大きな心が必要です。そういった異なる意見にこそ、新しい発展の種や問題解決の道が隠されているからです。


これまでは新卒者だけを定期的に採用して、自社において教育し、画一的な人材を求めていた企業も、最近は能力のあるユニークな人を積極的に中途採用することが行われるようになりました。組織の中に外部から異なった人が加わることによって、組織のマンネリ化を防ぐことができ、異なった考え方が、組織を活性化するのです。


異分野の人たちとの交流が視野を広くする


最近は、企業の競争力強化や様々な目的達成のために、異分野の企業がお互いのメリットを出し合って協力しあう企業間協力やアライアンスなどによる新しい事業展開が盛んです。これを異分野コラボレーションと言いますが、これなども異を味方にして新しい事業展開を進めていくことが目的です。


国家的に重要分野の科学技術開発などでは、政府や大学、産業界の専門家が一緒にプロジェクトを組み、産学協同で行っています。例えば文化に関する研究は、一般には文系の仕事であるように思われがちですが、その解明のためには、地質学、放射性化学、生物遺伝学、人類学、食物学といった理系の技術者や研究者との結合が不可欠です。


現在の高等教育が明確に文系と理系に分かれていることなどから、私たちは一般に、自分の専門によって、文系だ、理系だというこだわりを持つことが多くあります。しかし現代の複雑な諸問題は学際にあります。つまり双方が総合的に関与することによってのみ、問題解決が得られることが多くなっています。

私たちはもう、文系だ、理系だといったこだわり超えて、ものごとを、より広く、大きく考える必要があります。

新しい創造は、従来と同じ様な発想からは決して生まれません。考える視点が変わらなければ、現在の変化の厳しいビジネス状況を打ち破るための何の施策もアイデアも生まれてこないでしょう。